Les élégies (哀歌)
断片(静寂の器)
静かなメロディー
あまりにも長い間忘れ去られていた
広く解き放たれた空間と向き合う孤独なサクソフォン
時空を超えてこだまする音
燃え上がる記憶の断片
澄んだ夏の夜に降る雨の滴
定義できない空間をさまよいながら
どこか彼方へと向かう
放浪……
失ったかけらを繋ぎ合わせてパズルを解いていく



イメージの中にイメージが、まるで生き物のように現れ膨らんでいく。イメージの内に存在するイメージの断片が“過去”を抜け出す。断片の上に形成されるイメージ。記憶の断片、硬く編み込まれたスナップショットの糸、イメージの内に流れる複数のイメージ。原野。精神的緊張の空間。不安。怒り。狂気。糸がその限界ギリギリまで引き伸ばされていく。
それらのイメージは過去の出来事を写し取ったスナップショットではなく、再構築された物語であり、イメージに選り集められたフラッシュバックなのだ。目に見えない真実、静寂、そして不安がイメージを形成する。物語は“光”と“うす暗い闇”によって語られる。
「Fragments[断片]」は、作家や鑑賞者が前後に移動し、発見し、現実という舞台の空虚さの奥深くに存在する空間を押し開いていくイメージの迷宮である。イメージは、この抽象詩の中で、夢の限界における静寂を模索する。(溢れんばかりの水が境界となって道の終わりを覆い隠す。しかし、それは長い夜への期待でもある。そして夢に問いかけるのだ。)
光が影と戯れ、物体は遠くに流れるメロディーを映し出す。イメージはグレーの濃淡で彩られた虹に互いの姿を映し出す。この細部に、あの影に施した仕上げのブラシや海綿の跡。数本の咲き枯れた花、平穏に映る周辺だが、イメージの背後から現れるのは苦悩。まだ見ぬ何か。不安。心を捕らえて放さぬもの。
2000年7月 フィリップ・ウイッテンバーグ